ローリング・スター
開式の宣言がある。 今日此処で、アマダクラス・ファウエット公爵は騎士団の全権限を譲り受けることになるのだ。 この状況を私は知っていた。 知っていたからこそ、前にはなれなかった「ファウエット」の役を横取りしたのだ。 前の彼は月夜に映えるだろう銀の長い髪をしていて、青の服がとても良く似合う優男だった。 残念ながら私の髪は金の短髪であるし、肌も浅黒く筋肉質で、 どちらかと言えば緑の似合う男だろう。 似ても似つかない、だがそれでも私は此処にいることを許されている。 何故、と問われると、此処がそういう世界だからだ、と言うしかないが。 繰り返しが起こることは其処まで広く知れている事実ではなかった。 全ての人間に記憶が引き継がれる訳でもないし、 大半の者にとっては役などどうだって良いものだからだ。 しかし、こういった権力に塗れる世界に暮らす者にとっては違う。 役が得られなければ没落の一途を辿るしかないからだ。 幸運にも私には記憶が残っていて、更にそれなりの賢さもあった。 同じようにファウエットになりたがる人間を蹴散らし、 もう一度繰り返させようとする人間を潰し。そうしてやっと完結へ王手を掛けた。 貴賓席を見ると、サーファル警部が駆け込んで来るところだった。 彼もまた、この役を狙っていた人間の一人だ。 そして、きっと、今もまだ。 私が完結に手を掛けたとは言え、未だ物語は完結していない。 まだその役を奪う余地は残っているということだ。 気は抜けない、と私は手を握り締める。 警部はじっとこちらを見つめていた。 侮れない人間だ、何度も何度も蹴落としてやったというのに、 それなりの役を確保して、その上この役をまだ諦めない。 否、諦めるなど出来ないのだろう。 この世界は何度でも繰り返す。 通常なら不可能な逆転が可能なのだ。 可能性が残っていれば残っている程、人間というのは希望を持つ生き物なのだから。 それは私も彼も、元々ファウエットだった男でさえ、変わらないのだろう。 だから延々とその役を求め続けるのだ。 物語が誰かの手によって完結してしまうまで。
20131009