20141208一人の少年とその罪について 泣けば良かったのだろうか。 一人でただラジオの音を聞きながらそんなことを思う。 知らない人のために泣けないように、当時の僕は彼のためには泣けなかった。 知らない、知らない子。 後輩と付き合っていた時期があったということは、後から知った情報だった。 母から齎されたその情報は僕にとってどうでも良かった、 だって僕はそれ以上に彼のことを、憶えている場面があったのだから。 わいわいと煩い保健室だった。 病人の来るところだと言うのは建前だ。 怪我をした少年だとか、教室に行きたくない少女だとか、 いろいろとあふれているその白い箱。僕もそのうちの一人だった、 きっと、誰も覚えていない。 彼に出会ったのは其処だった。 なんてことない、ただのすれ違い。 お腹が痛いと言った彼に、薬を持っていると言っただけのこと。 いつもなら忘れてしまうだろう、そんなこと。 金曜日だった。 金曜日だったのだ。 野球部であった彼のその背中にはTの文字と、 恐らくOの文字が青く刻まれていて、僕の目にはそれだけが飛び込んできて、それだけ。 すぐに忘れるはずだった。 だって金曜日だったのだから。 土曜日と日曜日を経て、そうして月曜日。 社会科の先生と、その涙声。 僕の中で時間の止まった、それが忘れられない事柄になってしまった、その瞬間。 普通ならば其処で泣きわめいたりすれば良かったのだろう、誰かに言えば良かったのだろう。 教会でもいのちの電話でも、きっと話を聞いてくれる人はいたはずだ。 掲示板や何かでも良い、知らない人に吐き出すだけのこと。 それを僕は簡単になし得るやり方を知っていた。 知っていて、しなかった。 すべて、飲み込むことに決めた。 彼の、彼の罪は。 僕は思う。 僕の心に張り付いて離れない彼のことを。 消えてしまった、彼のことを。 恐らく僕を知らないでいった、彼のことを。 僕は。 目を開ける。 もしも天国だとか地獄だとか言うものがあるのならば、 僕と彼の行き先を別のものにしてくれれば良いのだと、そう思った。