灯台の老人
「あの灯台は?」 「あそこにはね、もう、人は入れないの」 そんな話を聞いた次の日。 旅人は、灯台の小さな扉に手を掛ける。  キィ… 小さく音がして、扉が開いた。 その瞬間、身体が軽くなる。 「すみません」 旅人は声を張り上げた。 「どなたかいませんか」 ボウッとしたランプが近づいてくる。 「誰だね」 痩せ細った、老人だった。 「旅の者です」 「旅人さんか」 ふぅむ、と老人は旅人を見て、 「悪いことは言わない。 早く戻りなさい」 「何故…ですか?」 「君はまだ切れていないから」 旅人は首を傾げた。 いつのまにか、老人は居なくなっていた。 暗い灯台は歩けるものではなく、旅人は外に出た。 その瞬間、身体が重くなった。 次の日。 「おじいさん?」 話をしてくれた宿の女将は、 「変ねぇ。 あの人は五年前に死んだらしいんだけど」
執筆日不明 / 旧拍手