とある電波受信機の話
「これはですね、人の哀しみを受信するものなんですよ」 管理人だという老人の言葉に、若い男は少し驚きながら、頷いた。 「人の哀しみ、ですか?」 若い男は聞く。 「それはどうやって、受信するんですか?」 老人は少し若い男を見て、悪く言えば一瞥して、 「貴方だけが知っています」 一言だけ、そう言った。 若い男は老人と別れ、電波受信機を見上げた。 寂れた、普通の受信機だった。 「僕だけが知っている」 若い男は少し笑って、そこを後にした。 「貴方だけが、知っている」 老人の呟きが、暗闇に響いた。
執筆日不明 / 旧拍手