そらいろ
その日はひどく空が青かった。 「晴れてんね」 そう言って振り向いた佐久間の瞳はそれと同じ色をしていることを、 僕は見ないでも分かっている。 「そうだな」 あってないような返答。 思った通り、むっとした空気がこちら側に流れてくる。 「何でこっち見ないの」 「見たくないから」 この色と同じな瞳をした佐久間なんて。 伸ばされた手を音が立つくらい強く振り払う。 こんなことは日常。 少し歪んでいるだけ。 何も可笑しくなんかない。 「この目、嫌いなの」 痛かったはずなのに、それさえ感じさせない低温で佐久間は問う。 疑問符がないのは解えを知っているから。 この遣り取りに意味はない。 強いて言うのなら、僕の口からその言葉を引き出したいがため。 「…嫌いじゃない」 「じゃあ好き?」 佐久間は欲張りだ。 分かっている癖に、正しい形を求める。 「…その色は嫌いだ」 これで、充分だろ。 そう込めてそっちを見やる。 腹立たしい程の青が目に入って、反射的に顔を顰めた。 さっきまでも同じものが視界にあったはずなのに、 それが佐久間に宿っていると言うだけでその不快感は増す。 「素直じゃないね」 笑うとその青が隠れて、少しほっとした。 佐久間の瞳は生まれつきだ。 まるで玩具のようなその楽しげな瞳は、世間一般には受け容れ難いもので、 非常に気持ち悪いのだと僕は知っている。 でも、僕はそれを気持ち悪いとは思えなかった。 好きにはなれないけれど。 空を映すそれは僕の嫌いなものをもっと近くまで落としてくるから。 佐久間と初めて会った日が曇っていたからだろう。 僕はそれを綺麗だと思った。 今でもその時だけ、佐久間のそれを好きになれる。 でもああ、本当に素直じゃないのはどちらだろう。 「僕は曇りの日が好きなんだよ」 「…知ってる」 僕は知っている。 これが欲張りな佐久間の我が侭なことを。 その我が侭を縁取るものの名を。 佐久間の瞳がきらりと揺らぐ。 やっぱり、この色は嫌いだ。 即興小説トレーニング お題:楽しい瞳 改訂版
20121218