昨日の午後の話
いいから活躍してこい ガラパゴスケータイでは何も出来ない。動かない速報を見ながら悲しき遺物を放り投げる。 テレビをつけてもなかなかその名前を見つけることは出来なかった。 これだから、サッカー選手の恋人なんてやるべきではない。 サッカー選手、ガラパゴス、悲しき * とあるタクシー運転手のはなし 深夜の首都高を走っていると後部座席に妙なものが現れる時がある。 「アゼルバイジャンまでよろしく頼むよ」 猫の形をしているそれが本当に猫なのか知る術はないし、 そんなところまで車を走らせる理由もないのだ。 猫、アゼルバイジャン、深夜 * 私の女神、マリアよ この魂は誰にも渡さない。まさかふらりと立ち入ったライブハウスで、 この僕が女神に出逢うなんて。血の海で立ちすくむ少女を抱き締めて思う。 こんな可憐な少女がたったいましたが、この殺戮の惨劇を起こしただなんて、誰が信じるだろう。 この魂は、誰にも渡さない。もう一度そう思う。 この魂は、ずっとずっとぼくが保管して、きれいにしてとっておかなくてはならないのだ。 魂、ライブハウス、殺戮の * 人面疽の宇宙人 英語の授業中に隕石が落ちてきた。あの日のことをきっと、僕は一生忘れないだろう。 「というか忘れられないんだけど」 お前の所為で、と背中に話し掛ける。其処には人間の顔が浮かんでいるはずだった。 僕が故郷愛媛から逃げ出すことになった、その原因が。 隕石、英語、愛媛 * 私の可愛いかわいい所有物 V系のボーカルの本名なんて知るもんじゃない。 そう言えるのは彼の化粧をしていない顔も、そこにたどり着くまでも知っているからか。 「地獄まで持って行ってあげるね、権之助」 「頼むからそれで呼ぶなよ…」 V系、ボーカル、本名 * さよなら呪われたこの血筋よ(私は一人で死にます) 北の先の未開の地に未だ巨人が暮らしているのだという。 そこから迷い出てきてしまったという母は何度もその話をしながら、喜色を浮かべて死んでいった。 しかし、申し訳ないのだが私はその故郷とやらに戻る気はないのだ。 巨人、未開の地、喜 * 昨日の午後のはなし キリンのゾンビってどうなるんだと思う、と幼馴染は聞いてきた。 「どう、って」 「あの首は支えていられるかっていう話」 「ああ…」 どうだろうな、と呟く。想像がつかなかった。そのまま答えずにいると、幼馴染は渋面を晒してくる。 「なんだ、分かんないのかよロン毛のくせに」 「ロン毛関係なくね?」 キリン、ゾンビ、ロン毛 * 逃げた。超逃げた。 告白というものを初めて見てしまった。胸がどきどきと煩い。 息抜きにやって来た屋上で、まさか上司の告白シーンに出逢うなんてまさか思わないだろう。 屋上で告白なんて中学生か。そしてなんと気になるお相手は美人なことで有名なカツラ女史である。 まだ返事は彼女から発されないものの、まんざらでもない表情に見える。 これは、これはまさか―――と思ったところで 手に持っていたコーヒー缶が落下し―――あとは、言わずもがな。 カツラ、上司、告白 * どろけい? けいどろ? (どろけい派) べたん、と音がした。さっきとは九十度くらい変わった視界を見て転倒したのだと分かる。 後ろからは鬼が近付いていた。間に合わない。 「つーかまーえた」 伸びてきた手が襟首を掴み、監獄へと押し込んでいく。 お粗末が規制線を見ながら、誰かがはやく助けてくれないかな、と思った。 転倒、監獄、鬼 * クリーンアップ運動 殺人鬼になった理由、なんていうのが好き勝手書かれている週刊誌を読みながら、 ぶらぶらと辺りを散歩する。いろいろな人が俺を特定しようと躍起になって、 いろいろな人が俺を恐れて、いろいろな人が次の被害者を待っている。 人間なんて、いつだってそうだ。週刊誌をゴミ箱へと投げる。 放物線から滑るようにゴミ箱へと入っていくもういらないもの、ナイスシュート。 誰かの不幸がこの上なく美味しい、そう思う顔を隠している、ああ、なんてこの世界は醜いんだろう。 美味しい、殺人、散歩 ライトレ
20150603