20080614ハコニワ 貴方は私を閉じ込める 少女は今日も空を見ていた。 何もない空。 雲だけが風の気の向くままに、ゆったりと流れていく。 ―――鳥も、飛行機も、ましてや虹さえ無い空。 「今日の気分はどうだい?」 少年は聞いた。 少女は答えない。 少年によって、壁に寄りかからせられたまま、 ピクリとも動かない。 「今日も良い気分だろう。こんなに空が綺麗なんだから」 少年は笑う。 やわらかい、やわらかい、笑み。 少女はそれでも答えない。 ただ目を堅く閉じたまま、少年の存在を認めないかのように。 「可笑しいんだよ」 少年は言った。 「昨日の夜、君のご両親と話してね。 ご両親は君のことを探しておられるんだ」 くすくす笑い。 「君はここに居るのに。可笑しいね」 少年は少女を抱きしめた。 少女の躯は冷たく、本来あるべき体温が、感じられない。 「君は、ずっと、ここにいる」 少女の首には、細く、紐の跡のようなものがついてた。 今はそれが紫色に変色している。 その跡はぐるりと首を一周していて、それは、まるで。 「僕のものだよ」 少年は笑った。 その瞳の奥に、何か底知れぬ光りが宿ることに、気付く者など、いなかった。