バトンより
【彼は振り向き、相手を見た】 この場合、相手は邪魔くさい人間で。 その邪魔くさい人間っていうのは、 彼を後ろからおおっぴらに尾けている、この僕のことであって。 痛い視線。 「ついてくるなよ」 アァ、そうやって。 境界線の向こうへ行ってしまう。 だけどね。 僕をナメてない? 喉を伝わる嗤い。 彼の潜まる眉。 「何が可笑しい」 相手を萎縮させるような光を、その瞳から。 でも僕は、そんなの痛くも痒くもないよ。 「ついて行かせてよ」 無邪気な声。 ただの好奇心。 耐えきれなくなったように、彼は目を逸らした。 その先にあるのは、冬の冷たい地面だけ。 【俯いて呟いた】 「何のメリットもない」 「あるよ」 遮るのは一つ。 「僕の好奇心。 キミは、僕に楽しみを与えてくれる」 「………」 彼は黙ったまま。 俯いた、まま。 屈しない相手の扱いは慣れていないのか、いつもの冷たさを忘れて、 泳ぐ視線を隠そうとして。 「本当に、可愛い人」 慣れてないと知って、それでも、すっと唇を継いで出る言葉。 【顔を真っ赤にして否定した】 「な!?」 予想通り頬が染まった。 口がパクパクと動く。 首をぶんぶん横に振る。 本当に、予想を裏切らない。 「本心だよぅ?」 いつ身長抜かれたっけ。 一月頃だったかな、気付いたの。 「―――」 彼は何か言おうとして、無駄だと分かったのか、諦めて、 「…可愛い、は、女子に使う言葉だろ」 「あれ」 僕はわざとらしく驚いて見せて、 「僕も一応、オンナノコなんだけどねェ。 一度も言われたこと、ないなァ…」 意地悪と言われてもいいや。 もう、慣れたから。 【石を蹴った】 「ほら」 突然差し出された手。 「何?」 「手」 「だから何」 「繋ごう」 「―――は?」 僕は彼を見上げる。 何を言ってるんだ? 「繋いで欲しいんじゃないのか?」 「僕、そんなこと言った覚えないけど」 思考回路が読めない。 “絶対零度”の仮面を被る彼。 本当の姿は、どんなんなんだろう。 確か、それが、彼に興味を持った最初。 「………」 困ったような彼を見て、素は結構馬鹿なんじゃないのかと思う。 そんなギャップが何故かむかついて、  ガッ 石を蹴り飛ばした。 「百年早い」 【次に回す人を選んだ】 「さて、っと」 少しだけ、彼と一緒に歩いて、くるり、一回転。 「僕はこの一年、それなりに楽しかったよ」 笑えてるはずだけど。 「キミは面白い子だった。 僕の好きなように回る、可愛い玩具」 回して廻して舞わして。 「だから、言っとく」 いつもと同じ。 唇に乗せて。 「―――ありがと」 背を向けて歩き出して、彼がどんな顔をしてるのか気になった。 だけど振り向かない。 振り向けない。  ガシッ 「え」 突然、後ろから引っ張られた。 一拍おいて理解する。 「ちょっと」 不機嫌をあらわにして、 「誰の許可取って抱きしめてんの」 「だって」 仮面の上では聴けない、弱々しい声。 「こうしないと、離れてっちゃう」 その言葉を聞いて、 「―――百年早いって言ってるでしょ…」 次の玩具も、彼にしようと、心の底で誓った。
執筆日不明 / ブログでやった創作バトンより