執筆日不明雨の日の喫茶店 雨がガラスを叩く音だけが、妙にそこに響いていた。 いつもは聞こえるはずの他の客のたわいのない世間話も、今日は聞こえない。 「マスター、何で客居ないんですか?」 最近雇ったばかりの新人君が聞いてきた。 「んなもん決まってるだろ。 雨だからだよ、雨」 マスターと呼ばれた小柄な男が、頬杖をつきながら答える。 「んー。 そう言うモンですか?」 「そーゆーモンだよ。 …ほら、おやつにすんぞ」 「はいはい」 新人君がカウンターでゴソゴソやる。 マスターの目には、 学校帰りの子供だろうか、周りより一回り低い傘が映っていた。 「そーいえば…」 「ん?」 マスターは軽く振り向く。 「マスターが摘んできた紫陽花、どうします?」 「どっかに飾っといてくれ。 折角傘差してまで摘んできたんだから」 「虫とかそう言うの嫌いなのに、良くやりましたね。 紫陽花なんて、いっぱい居そうなのに」 「居なかったからな。 虫とかも雨で休んでるんだろ」 「カタツムリは居るんじゃないですか?」 「それには居なかったから、大丈夫だ」 新人君はそうですか、とでも言うように微笑んで、ゆっくり紫陽花を見ると、 「…カタツムリ、居てますが…」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」