料理
 コトリ 音がして、少女が顔を上げた。 彼女の母親が真っ赤なスープを、少女の前に置いた音だった。 「できたの?」 ほこほこと湯気を上げるスープを見て、少女は問う。 「できたわ」 母親は笑った。 どんな料理の仕方だったのだろう。 彼女の顔にも、その白いエプロンにも、スープがべっとりと付いている。 「脂が少し多くてね。カロリーカットも考えて欲しいわ」 母親はスープの匂いをさせたまま、奇麗に笑う。 「…ホント」 少女は言って、スプーンを取った。 一口すする。 「お父さん、おいしいよ?」 誰もいない空間に、微笑みかけて。 唇に付いたスープは、鉄の味がした。
20071202
title