スクランブルエッグ 

 ぱたぱたと消えていく涙のことをぼくらは何か特別なもののように思いすぎなのだろう。きっと昨日にもあったそれをぼくらは感知していなかっただけで、交差点の隙間やら信号機の点滅やらにぼくらは、ただ。
「愛しているよ」
「愛していたよ」
「永遠に」
「延々と」
「それは間違いだよ」
 嘘を嘘とも言えぬまま、ぼくはらまた前を向いて歩いていく。

***

桜の樹の下には(  )が 

 紅は素敵ないろなのだろう、と思う。此処にないから、此処にあるから、誰でも持っているから、誰もが隠しているから。

***

どれみふぁそらしど 

 明日がどれほどにきれいなものになるのか、はたまた意味のないものになるのか誰も知ることはない。それでも人は手を伸ばすのだ、明日のことなど誰も分からないのに。
「不毛じゃない?」
「不毛じゃない」
「本当に?」
「本当に」

***

 

 雨と雪が混ざり合って青く光っている、誰も忘れたことのない世界のことがぐるぐると回って葉の裏に隠れてしまう、明日が来ることは確定ではない、さよならを云うことは誰にだって出来ることじゃあない。

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春のわた 

 カーテンを開けて窓を開けて風を捕まえてそれから一日を始める、誰も救われない日常を美しいと思うために。

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人魚姫のそののち 

 何もかも知っているなんてきっとつまらないことなんだよ、だから何も知らないままで無知のままで君のために笑っていたい、それの何処が愚かな願いだろうと君が言うのをただ黙って見ていることしか出来ないのは大昔の馬鹿な誰かの呪いの所為なのだ、きっと。そうでもなくちゃやっていられないのだから、本当。

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祝福にも似た呪い 

 貴方だけにしか見えない世界を今、此処に、書き出してよ、ねえ、そのために生まれてきたんだろ。

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 圧倒的なものにどうにかされてしまった世界に生まれ落ちたのだったら僕は何かを美しいと思えたんだろうか。

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夜に暮れる 

 大丈夫だよ、と君は言う。こんなことには慣れている、この喉はそういうふうに出来ている、悲しいことなんてこの世界には溢れているからそんなに珍しいことでもなくて、なら足が潰れるまで踊らなくて良い私はきっと普通じゃないから。

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アイソトープ 

 私というものがいつしか揺らいでいってそれを人はモラトリアムだなんて高尚に名前を付けて分かったつもりになっているようで、いや多分分かっている人は分かっていたんだろうけれども今目の前で仮面をかぶっている君はどうしたってそうはなれなくて、それを悲しいとも思えない君が仮面をいつ外すのか、そんな未来が本当に来るのか私には私たちには分からないからこそ風鈴の音が耳について仕方なくて、だから目を閉じるのだ。目を閉じたって光は瞼を侵食すると知っていても、尚。



20190807