私の言葉はあなたを刺した 

 舞来(まき)は純粋なところがあって、それは同級生と思えないほどで、でもしっかりしていない訳じゃないから舞来の危うさを誰もしらなくて。
 舞来は私が砂糖菓子の弾丸を持っているんだと信じていた。大切に大切に、それを壊さないように尽力しているんだと、馬鹿みたいに信じていた。いや、舞来を馬鹿にしたのは私だった。私が舞来に呪いをかけて、それを誰も呪いだとは思わなかったけれど確かに呪いで、その日から舞来は私の前でだけは馬鹿になった。馬鹿になるしか出来なかった。
 私の所為なのに、私は舞来に向き合わない。
「舞来」
私は多分、すごくやさしい声を出せた。
「もう、私たちともだちじゃないから」
 こんなに好きなのに分かってくれない舞来のことを、嫌いにもなれない私の、唯一の攻撃だった。
 砂糖菓子の弾丸ではない、氷の一撃。
 そして、
 舞来は。



@AK_bot_

***

どろどろに溶けて混ざりたい 

 本当は知っていた。浮柳(ふゆ)があたしのことを好きで好きで好きで好きで仕方ないってこと。でもあたしが何か言えばきっと浮柳はあたしのことをもう好きじゃあなくなるから、だからあたしは完璧に呪いにかかってみせた。すごい才能だった。あたしに才能があると教えてくれた姉さんは本当に最高だと思った。
「可哀想な浮柳」
 あたしの親友。



白紙に恋 @fwrBOT

***

表すことの許されない感情を抱え 

 劇的なものなんて何処にだって転がっている。例えば実の妹のことが恋愛の意味で好きだとか。
 私はそれに気が付いた時、そんなに大人ではなかったのでその妹に呪いをかけようとした。
「舞来、アンタは幸せになれないの」
それは成功したはずだった、でもそれは私の想像していたのとは少し、違う形になった。
「姉さん!」
可愛い妹は帰ってくる。
「あのね、姉さんの言ってたことは本当だったよ!」
 あたしは幸せになれないの、馬鹿だから無理なの、でも呪いにかかる才能だけはあるの!
 …私は、一体誰を呪ってしまったのだろう。



@sousakukeiodaib

***

花粉症の方はお取り扱いにお気を付けください。 

 春を箱詰めにする仕事をしている。この一瞬の輝きを人差し指と親指でぽっとやさしく摘み取る作業は、簡単なように見えてひどく神経を使うもので、ぼくはこれが出来るようになるまで三十年かかった。でもこのひとつまみの春を集めて箱詰めにしてそれが誰かを笑顔にするのを見ると、鳴呼、だからぼくはこの仕事を選んだのだろうな、と思う。人差し指と親指は春の名残で磨り減っている。ぼくはその摩耗した指の腹を、春の間は指紋の再生さえ追い付かない指の腹を愛している。

***

サンドリヨン 

 さよならを云うのを忘れたともう言えなくなってから気付く。でもきっとこの後悔が持続剤になってわたしをかたちづくるのだ。

***

お下がりください 

 君の世界はこんなふうに見えているんだね、とバーでとなりになっただけのひとがあまりに感動したように言うので、明日の通勤時間に線路に飛び込むのはやめにした。たぶん、この感動してくれるひとは、いつかきっとわたしの背中を押してくれるので。

***

僕を助けるか殺すかしてください 

 愛してるなんて誰だって言うことが出来る言葉ででもだからと言って何が正しい愛してる≠ゥなんて誰にも分からなくてある人には百であるものがある人にとってはマイナスになることだってあって、もう訳が分からないよね、と言っても君は同意してくれないからもう二進も三進も行かない選択肢を提示する僕は多分きっと悪魔から生まれてきたんだろう。



少女Aの悩み事 @muro_x

***

最強のさよならが欲しい 

 そもそも僕は強くなんでなくてだから仕方ない仕方ない仕方ないで毎日を生きてきて、目の端に映るいじめっ子のこととかいじめられっ子のこととか非日常として処理したくてでも多分あの子たちは明日には死んでいるから、それが少しもったいないだなんて鳴呼、馬鹿なことを言えるのは掃除機が煩い所為で雨の音を掻き消す所為で僕の所為ではなくて、テレビが壊れていて良かった、クソみたいなニュースに流してやる涙なんて何処にもない。人間は殺し合っている、でも人間を減らす方法はない。だから殺し合ってるのかも知れない、新しい道路が出来ないから。弱さは人間性の証しで僕が人間であることの証しでだから僕は強くないまま生きている。明日死ぬつもりで死ねなくてまた今日を重ねていく。

***

索敵 

 ばらばらと日常がおちていく、それをただ見つめている。靴下の片っぽが消えてしまったのはあの日の青空が眩しかった所為でそれ以上でもそれ以下でもない。

***

朝の来ない世界 

 美しい海に君が降りていく、君はその中にかえるのだと言う。僕はそれは間違っていると思いながらも君に届く言葉がどれなのか分からなくてただ見ている。足元でぴちゃん、と波が生きているように跳ねて、僕は何も見たくなくなって目を閉じる。



20190305