その十五分間
「今日のはちょっと薄い」 ず、と紅茶を啜ったあと、その口からあふれ出た評価に思わずくすっと笑った。 「ミルクをいれなければ良いのでは?」 「ミルクがなければとこんな渋いもの飲んでいられないだろう」 そう言いつつも飲み干すところは律儀だと思う。 ふふ、とまた隠しもせず笑いを漏らして食べ終わった皿を片付けていく。 これは、幻想だ。 朝の光を浴びながら思う。 終わるはずだったあの時間が、ぐるぐると永遠に回り続ける、まるで呪いのように美しい幻想。 「…笑うな」 「すみませんね、あまりに律儀だと思ったものですから」 飲まなくても良いんですよ、と告げれば戸惑ったようにしばらく視線を彷徨わせて、 「お前が、淹れたものだから…」 頬を染めるのだから、この人の元を離れようなどとは思えないのだ。 またふふ、と今度は嬉しさに笑いが漏れた。 かちゃり、申し訳程度の流し台に食器を片付けて、また戻っていく。 「ふふ」 「今度はどうした」 後ろに立って、彼の読む新聞を覗き込む。 触れた肩はあまりに冷たく、現実味を帯びていなかった。 「いえ、幸せだな、と思ったので」 誰もいなくなった廃ビルで今なお続く、二人だけの朝。
診断メーカー 「朝の廃ビル」で登場人物が「寄り添う」、「紅茶」という単語を使ったお話を考えて下さい。
20130628