窒息するほど愛して欲しい。
人の言う愛というものが理解出来なかった。 愛して欲しい、そう願うことが、理解出来なかった。 家の者も、友人たちも、あの忌まわしい機関の誰も彼も、愛は尊いとのたまうのだ。 もし、そうだと言うのなら。 あの時の四月は言葉にこそしなかったがそう思った。 もし、彼らの言う通りに愛というものが本当に尊いものなのだとしたら、 彼らの言うそれは愛ではないのだろうと。 誰か一人の力に縋らねば生きていけない、 そんな彼らが口ずさむそれは、愛なんかではないのだろうと。 そう、思っていたのに。 あの男が忌まわしい箱庭を壊して、四月を其処から連れ出した時。 感謝は勿論あった。 四月自身の望んだことをいとも簡単に叶えた男。 それを見て心に刻まれたのは、嫌悪だった。 そして次いで、嫌悪をぶつけるのはお門違いだとおも思った。 望んだのは四月なのだ、だからその非を問うならば四月自身になる。 もう、望むことなど止めよう、そう思った。 一番の願いは達成された、だから望むものなど何もない、だから大丈夫。 そう、思っていたのに。 こんな、こんな男に。 性癖のことではない、あんなことを平気な顔で出来てしまうこんな男に。 まさか。 そんなものを。 ぐらぐらとたぎるような心の奥底に、皆一様に口を揃えて尊いと言った意味を理解した。 そして、縋らずにはいられなかった、その執着も。 息を吐くにも唇が震える、胸が苦しい神聖さを。 ―――紫子。 呼んだら、願ったら。 きっと、彼はこの願いとて叶えてしまうのだ。 だから、言わない、言えない。 これは、四月が勝ち取らねばならない、未来なのだ。
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20140226