ガタンッ バサバサバサ…
白狐の黎明堂内の物置で、大きな音がした。
「いずみ!!」
涼水は叫んで立ち上がった―――。
もちつき
「いずみ!!」
ギィッ
重い音がして、物置の扉が開く。
前も同じようなことがあったのだ。
物置でした、大きな音。
前回は涼水が放っておいてしまったため、いずみは三日間そこで過ごすことになってしまったのだ。
―――いろんなモノに埋もれたまま。
「ここ〜」
奥の方で何かが動いた。
「ちょっと待っててね!」
涼水は声のした方へ走っていく。
良く見ると、物と物の間から手が出ていた。
知らない人が見たら、ホラーだ。
叫んで逃げてしまうに違いない。
うん、間違いないっ!(某有名なミステリー番組の探偵役風に)
数分後。
大量にあるものに埋もれたいずみを、涼水は掘り当てた。
「今度は何する気だったの…?」
確か前回は本を探す為だったと思う。
一冊取ったら、他の本も落ちてきたのだ。
その振動で、棚の上にあった他のものも落ちてきて―――結果的に、生き埋め状態になったのだ。
「んーっとネ。えーっト…」
いずみは辺りをごそごそと探す。
「あ、あっタ。これこれ!」
物と物の隙間から見えたのは。
「臼…?」
餅つきでよく使う、茶色の臼だった。
「さーってト。はーイ、只今より、餅つき大会を始めまース」
パチパチ…とやる気のない拍手が起こる。
「てゆーかさ、何でウチらが呼ばれてんの?」
そう言ったのは十六夜。
「いざやん、餅ついてみたいって言ってなかったっケ?」
「いつの話だよ…」
いずみの返答に、十六夜は呆れる。
二、三年前カナ〜といずみは笑った。
「アタシは?」「ウチは?」「私は?」「ミーは?」
次々に聞いてくる客たち。
いずみは客の顔を見渡すと、一気に答えた。
「そーちゃんは餅つくようニ。二の腕の筋肉つけるんデショ。
凜は水入れ役。アンタのタイミングはばっちりだからネ。
鹿驚は餅つき。そーちゃんの次にやる為だヨ。…バテた時の為。
洵には米を炊いてもらおうかな、ト。電気器具は使えるよネ?」
「もちろん!」
洵が親指を立てて言った。
「アレ?四月さんは?」
涼水が聞く。
「それはもちろン…」
「食べるため!!」
いずみの台詞を遮って、四月が叫ぶ。
「…あ、そうなんですか…」
キラキラした四月の顔を見て、涼水はやっとそれだけを呟いた。
ぺったん ぺったん
定番の音を立てて、草希が餅をつく。
「腕が痛い…」
愚痴りながら。
「二の腕の筋肉つけるんデショ?」
いずみが笑いながら言った。
「だーけーどー…」
「やらなきゃつかないっテ。ホラ、頑張レ」
いつもとは関係が逆転している。
いつもは草希がいずみを急かしたり何だりするのに。
「いずみ…私は何をすれば良いの?」
涼水は聞く。
「え?あー…。別に、何も無いヨ。座ってテ」
「あ…そう」
何もしないなんて悪い気もするが、仕事がないのなら仕方ない。
「あ、お茶でも入れよっかな」
涼水は屋敷の中へ入っていった。
「お茶入れてきたんですけどー」
涼水はお盆を持って出てきた。
「あ、涼水。ナイスタイミング」
鹿驚が振り向く。
「ホントだぁー。今、つき終わったところだよ」
十六夜が笑った。
「さーテ、お昼にしますカ」
いずみが言う。
時計は十二時を指していた。
「どうやって食べル?」
いずみが聞く。
「きなこ餅!」
「雑煮!」
「磯辺焼き!」
「おしるこ!」
たくさんの意見が上がる中、
「じゃ、間をとって、砂糖と醤油混ぜたのをつけるやつネ」
「「「「え―――っ!!」」」」
結局は、いずみが勝手に決めてしまうのだった。
数分後。
「できたよっ!」
“神”である凜が言った。
「じゃ、席ついテー」
いずみの言葉で、全員が庭にある木のテーブルに着く。
「手を合わせてくださいっ」
いずみの声で手を合わせると、
「いただきます!!」
全員で声を合わせて挨拶した。
「あ!ちょっと、凜、ソレ何個目!?」
草希の怒声に、凜は至って冷静に返す。
「え?十三個目だけど?」
「何―――っ!?アタシはまだ五個しか食べてないのに!!」
「ソレは遅いよ、そーき」
草希の叫びに、十六夜がツッコミを入れた。
ちなみに十六夜は十個目。
(あれ、餅って“個”で数えて良いんだっけ?)
「みんな酷い!
アタシが食べるの遅いって知ってて、お餅全部取ってっちゃうんだから…!!」
「お皿に取っておけば良いんじゃないノ?」
いずみの言葉に、草希は停止した。
そうよ、何で気付かなかったの、アタシ。お皿というものが存在するんだから、
これに取れば良いじゃない。こんな簡単なことにも気付かないなんて、アタシ、
どうかしてる。(いつも変だとかいうことはほっといて!!)あぁ、もう…。こ
んな所でへこたれてたら、このアタシの名が廃る!!そうよ!アタシは仮にも全
国テストで一桁を取った人間よ!?ここにいる誰よりも、ホントは偉いのよ!!
(だから、変だって言うのはほっといて!!)ほんとは…本当は、天才なのよ!
(「馬鹿と天才は紙一重」なんて言わないの!!)くそ…こんな所で負けてたま
るか!!!
と、この間〇.二秒。
次の瞬間。
「アタシのお餅…。返せぇぇぇぇぇ!!!」
「ぎゃ―――っ」
とりあえずいろいろあったけれど、凜がたくさん食べるんだと、涼水は知ったのでした。
めでたし、めでたし。
おまけ
20071230