廻るめぐる
「新しく入ル榊丸ネ」 白狐の黎明堂―――何処にあるのかも良く分からない所謂なんでも屋、 そこでの仕事に慣れ始めた頃のことだった。 『榊丸だ』 まず、感じたのは恐怖。 それから間を置いてその目を奪われる程の容姿に気付く。 ほっそりとした身体、血の気がないと言っても良い顔、 開けた胸、濡れた瞳、それは誘っているようで完全な拒絶。 じっと見詰められることに居心地の悪さを感じながらも、そっと手を差し出す。 『アルト・ファウストです』 どくり、と疼いたのは何だったか。 指先が触れた所から走り抜ける、身体の芯からの歓喜のような。 知らないはずなのに、知っているような。 『よろしく』 真っ直ぐに射抜かれる、その瞳に何か惹かれたのも事実。 例えるなら、支配されるような光。 その光の中で、凍て付いていたのが何だったのか、それは良く分からなかったけれど。 一瞬、ふわりと笑ったのが分かって、 そんなにとっつき難いやつではないのかもしれないと思った。 ただまた嘘を重ねる予感だけが、心の中に重く沈み込んで行った。 『…アルト』 『何?』 振り向く。 何処か困ったような表情を称えるそいつ。 『―――…何でもない…』 未だこいつの見ているものは何なのか分からない。 それが大切なものなのだろうと言うことは、俺でも感じるが。 『変な奴』 笑う。 まだ新しい人生は始まったばかりなのだから。
20120713