機械人形の憂鬱
はぁ、とため息がこぼれ落ちたのはこの雨の所為ではない。 もうすぐ台風が来るとテレビのニュースが伝えていた。 洗濯物が乾かなくて困ることになるのだろうけれど、憂鬱の原因はそれではない。 「なぁに、ため息吐いて」 ぼすり、と後ろから抱き着かれる。 「…エイ」 ふいっと見上げた先には、 ミィよりもずっとずっと背の高いエイがいつものすました顔で立っていた。 「なんでも、ないですよ」 こんなふうに笑っても、きっと彼女にはお見通した。 だからだろう、ミィを抱き締める腕に少しだけ力が入った。 アンドロイドはそんな些細な変化も見逃したりしない。 「また、あの馬鹿ね」 「エイ」 「帰って来ないの、気にしてるんでしょう」 もう一週間経つものね、と言われてしまえば何を返すことも出来ない。 言葉に詰まって喉が熱くなって、目の奥が沸騰するみたいで。 くるり、と反転させられた身体が、またやさしい力で抱き締められる。 「エイ」 「なぁに」 「ユウは大丈夫でしょうか」 「アイツなら大丈夫よ、殺しても死なないわ」 そんな物騒な物言いこそがひどく彼女らしくて笑ってしまう。 「そう、ですね」 「そうよ」 「はい」 「だから、」 泣いたって、良いの。 ぽつり、落とされた言葉は本当のところ雨の音に掻き消されてしまっていて、 そう聞こえたような気がしたのは全部ミィの願望なのだ。
白黒アイロニ
20140709