切っ掛けは、ちょっとした共通点。
その美しい客が初めて口を開いたのは、 彼女がこの店に通い始めてから半年も経った日のことだった。 「いつも、淹れてくれるの君だね」 その言葉にどきり、と胸が鳴る。 「貴方が来たら俺が淹れるって決まりなんです」 「へぇ。それはまた何故」 「…貴方がこの店へ来て、初めて顔をほころばせたのが、俺のお茶だったから、だそうです」 誇らしい、ことだった。 何をしたかった訳でもなく、ただ遠い親戚の喫茶店に拾ってもらって生計を立てる日々。 別に喫茶店の仕事が嫌いな訳じゃなかったけれど、特に彩りも見いだせないで。 それが、彼女の微笑みによって突然色付いたのだから。 「そうだね、君のお茶には心が篭っている。何か、特別なことでも?」 「いえ…特には、していないと思います」 蒼い双眸がじっとこちらを見遣るのに落ち着かないきもちになった。 何処か観察するような色をしているのに、どうしてからその場から逃れられない。 裁判を待つようにそこに突っ立ったままでいると、その形の良い唇が再度開かれた。 「ねぇ、君」 するり、と手がとられる。 「うちで働かない?」 それはまるで御伽話に出てくる王子を彷彿とさせる所作で、 何を考えるよりも先に是非、という答えが口から飛び出していたのだった。
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20141121