20141121変わりゆくもの その気配が、足音が。 自分の店の中で動くことには実のところ、まだ慣れていなかった。 昔はもっともっとたくさんの人間と一緒に暮らしていたというのに。 数年のブランクの所為か、それとも彼女がただの人間であるからか。 そんなことを考えながら、じっと彼女が近付いて来るのを待つ。 いつもなら、この辺りで名前が呼ばれて―――と思ったところで、とんとん、肩を叩かれた。 振り返る。 「いずみ!」 にこっと笑って見せた彼女に、悪意は見えない。 未だ、毎回そんなことを確認してしまうのは、もうそういう習慣なのだと思うしかない。 言わなければ彼女には分からない、そういうものだ。 彼女は、知らない世界の話なのだから。 いつもは、そんなくだらない思考をしながら、話を聞くだけで終わっていた。 今日の話は、洵からメールが来たという内容だった。 明日来るんだって、常連客である洵の大ファンらしい彼女はとても嬉しそうだ。 けれど。 何か、今、確実に違和感があった。 手を伸ばす。 不思議そうな顔をした涼水が、こちらを見つめている。 この首を掴んだりしたら、きっと死んでしまう。 そんな、か弱い生命を今日まで、生かしておいたのは。 「ゴミ、ついてたヨー」 「えっ、あっ、恥ずかしい〜」 綿埃を取ってやれば、照れたような笑顔が向けられた。 いつもと、変わらない。 「そうだ。 だから、明日洵さんが来るから買い出し行こうと思って。 何か買ってくるものとか、ある?」 「ンー…今のところ、ないカナー」 「そっか。なら良いの。行ってくるね」 「ウン、いってらしゃイ。気をつけてネ」 小さな手を、これ以上大きくならない手を振ってやれば、楽しそうに振り返される。 それを、見送ってから、 「…涼水に、触れられるようニなってル」 ぼそり、と呟いた。 「どういウ、こと…」 今まで、なかったことだった。 ずっと、ずっと。 彼女を拾ったあの日から、ずっと。 涼水の身体は彼女の意識に関わらず、いずみからの接触を許しはしなかった。 それが、今になって、何故。 困惑だけが、残る。 変わる、変わる、世界は変わる。 めぐる世界は止まらない。 たとえ、その変容の意味が当人に分からずとも。