このぐちゃみその世の中で、ずっと一緒にいられるかなんて、可能性は極めて低いだろう。



いとで縫うように
何だ、と言われて顔を上げる。 いつもと同じにこにことした笑みを浮かべてこっちを見やるその人を見て、 俺は自分がその名を呼んでいたことに気付いた。 「え…あァ、何でもないです。呼んでみただけ」 「なんだそれ」 その人は笑う。 俺はそんな反応にほっとする。 こうして傍に居られることは嬉しいことだが、いつだって気が抜けなくなる。 鳩がぽっぽう、と鳴いた。 その何処か間抜けな声が、すっと現実にまで思考を引き戻してくれる。 ―――俺は今、何を言おうとした? 土方さん、と。まるで遊女のような響きが自分の中で響いていく。 言ってはいけない、そんなことは誰に言われなくても分かっている。 別に、それがいけないことな訳じゃない。 そんなことを言ったら武田さんなんかさっさと切腹させられているだろう。 そうじゃない、違う。 この時代だから。 その人と俺だから。 だから、いけない。 全身が震えてしまいそうな衝動を気力で押し込める。 吹き出す汗にはどうか、気付かないでいて。 「何でもありませんから」 そればっかだな、と微笑うその人の目線はまた鳩へ行く。 そうしてやっと息が吐き出せる。 これは、伝えてはならない気持ち。
20141121