赦されざる来客は道の提示を希う
彼女は貴方と良く似ている
引き止めることなかれ
その幸せは純白の下にある
薔薇咲く頃
「働く所を探している?」
薔薇の香りのする店内で、其処の店主は聞き返した。
短い金の髪が傾げられた首についてふわりと揺れる。
『えぇ、何もしてないっていうのが落ち着かなくて。
帰る場所もなくなっちゃったし、迎えも来ないし』
客はその蒼の瞳を見つめて、困ったように肩を竦めて見せた。
サングラスに隠された瞳はいたずらっこのようで、今もなお輝きを失っていないのが良く分かる。
「あらあら、良い心がけ。
世の中の怠け者たちに聞かせてあげたいわ。
…でもねぇ、ウチ、貴方みたいな人は雇えないのよ」
『あら?貴方も似たようなものでしょう?』
予想外だと言わんばかりに見開かれた瞳に違う違う、と否定を入れた。
「そっちじゃなくて、もう一つの方」
『あぁ…そっちはどうしようもないわね』
どうにか出来るならするんだけど、と客は顔を曇らせる。
その動作も何処か様になっていて、
もしかしたら彼女は人の前に立つことになれているのかもしれない、とまで思わせた。
「ああでも、一つ。良い場所があるわ」
細い指を一本立てて、提案する。
思い浮かぶのは小さな子供、最近代替わりをした同業者。
確か、そろそろ人手が欲しいとぼやいていたはずだ。
「そこで働けるかは分からないけれど…少なくともウチよりは可能性はあると思うわ。
それに、其処が駄目でも彼女ならきっと貴方の願いを叶えてくれる。
お望みなら、紹介するけれど?」
「お願いするわ」
客は頷く。
その表情はきらきらとしていて、なんとなく、此処で上手くいくのだろうな、と思わせた。
『パルランテ通り、端から三件目の大きな和風のお屋敷』
言われた道を辿って行った先は。
『…此処が、白狐の黎明堂』
彼女の今後に、幸多からんことを。
20140209