甘い甘いお菓子を贈ろう
誰でもない
君のために
午後には砂糖五杯の紅茶を
その日、イザヨイの研究室には草希が来ていた。
壁に映し出されているのは、一人の人間の健康診断結果。
「どうにもならないの?」
草希の口から出たのは、彼女自身も驚く程か細い声だった。
「…ならないね」
やたらと静かに、イザヨイが応える。
もともと在るべきものもなく、
更に対価として渡してしまったものまで。
いろいろと欠けている…いや、欠けすぎている。
「臓器そのものはあるから、そういった面での問題はないんだ」
あまりに弱々しいその結果は、
「でも、崩れすぎている」
自分たちと出会えたことすら、奇跡に近いのだと物語っているようだった。
イザヨイはこんな嘘を吐かない。
それは、この短い期間でも草希には痛いほど分かっていた。
たとえ、今日が四月一日だったとしても。
だからこそ、悲しい。
「あの小さな身体は、今生きてるだけで精一杯なんだ」
冷たい、声だと思った。
「本当なら引っ張ってきて、此処に監禁したいくらいだ。
…でも、アイツはそれをよしとしないだろう?」
頷く。
目に浮かぶ程の成し得ない未来。
「高カロリーなものを食べれば何とかなると、本能で分かっているんだろ。
…もう、止められないな」
薄々気付いていたものを、こうも形にしてしまうと、
こんなにも辛い、なんて。
「言わないの?」
「…言えない、だろ」
受け容れるだろう、あの子はそういう子だ。
でも、それを言葉に、喉から舌へ、酸化させるのはとても難しい。
主治医のような冷たさで、イザヨイが笑った。
あまりに悲しい嘘を吐いた。
そして、嘘と分かって頷いた。
そういうものなのだ、この関係は。
奇麗事なんて要らない。
ただ、傍に居たい。
四月一日、エイプリルフール。
それはきっと、優しい嘘なら赦される日。
20120403