王子様がお姫様を硝子の靴で探し出す。
いつもは冴えない格好をしているお姫様は、実は着飾るととんでもない美人なのだ。
そんなシンデレラ・ストーリーを“私”は可愛らしいと思うけれど僕は嫌悪する。
一緒に灰を被りましょう
何故そんな話を持ちだしたのか―――
僕の親友が馬鹿で浅はかな王子様に付きまとわれているからである。
彼女が嫌がっていないことを本当に心底感謝しろよこのゴミクズ、
まで言うと彼女に嗜められるため言いはしないが、
本当のところそれくらいはいつも思っている。
それを兄に零すと、いつも“私”がやっているようなやわらかな笑みを向けられた。
この人はこれが常だ。
こういう人だ。
「何も鹿子がそんなにむくれることではないだろう?」
「…だって、紅絹は兄さんの運命じゃないか」
「まあ、そうだろうけれど」
そう、運命だ。
運命なのだ。
紅絹に硝子の靴を持ってくるのはあいつじゃない。
王子様じゃない。
神様が。
彼女を既に愛しているのだから。
もう既に決まっているものを横からかっさらって行こうとする王子様なんか、僕は大嫌いだ。
当たり前だ。
すきなひとがすきなひとと結ばれる。
それがどれだけ素晴らしいことか、きっと他の人には分からない。
こんなことを言うと、
まるで僕が彼らを自分の世界の平穏のためだけに
くっつけようとしているように聞こえるかもしれないが、
それは違うとだけ言っておく。
僕にもうまく説明は出来ない。
でも違う。
紅絹は。
紅絹は、僕の世界であり、すべてなのだ。
それは依存ではないし、恋でもない。
うんうんと唸る僕の頭を撫ぜて、神様は言う。
「運命だとしても、選ぶのは紅絹だよ、鹿子。無理強いはいけない」
「………はぁい」
その返事の仕方に僕が納得していないことを読み取ったのか、神様はまた笑った。
20141213