その日は練習試合だった。
県外から強化合宿に来ている学校と。
「何でまたこんなクソ暑い日になるかなァ…」
僕がぼやけば、
「文句なら太陽に言ってくれ」
伊加野がうんざりとした顔で言った。
どうせ、他の部員も同じ事を言ったのだろう。
伊加野の顔を見ればすぐに分かる。
「どこの学校だっけ?」
「忘れた」
「うわ、部長がそんなん言ってて良い訳?」
「良いんだよ。そんなん顧問の仕事だろ」
一年がモップを掛けたり、ゴールの整備をしたりするのを、バッシュを履きながら見ていた。
僕らも同じようなこと、やったな…。
ぼんやり思った。
玄関先がざわつきだした。
「来たのか?」
「そうらしいね」
うちわで仰ぎながら、栄がのんびりと答える。
僕は入ってくる他校の生徒を、ぼんやりと見ていた。
その中に。
「うわ…。めちゃ白い奴がいるー…」
この暑さの中、一度も日に当たったことが無いような、白い肌をした奴が居た。
「おい、それをお前が言うか?」
映太のツッコミ。
「アイツほど白くねーだろ」
日に当たってるし、と僕が反論すれば、
「部活以外で外に出たがらない奴が良く言うよ」
へばっていた伊加野が会話に加わってきた。
「英生と良い勝負だねぇ」
伊加野に反論しようとした僕の言葉は、栄の言葉によって遮られてしまった。
「向こうの方が、綺麗だ」
僕は呟いた。
バッシュを履いている部員を待つ間、コートに入ってシュートを打つ、真っ白な少年。
その表情が。
キラキラした瞳が。
「―――バスケ、すげー好きなんだ」
すごく、綺麗、だった。
20121026