進路希望は林葉には言えない。
もう夢がブレないであろう彼女に、ブレるかもしれない自分の夢はまだ、言えない。
「お前が商学部、なんてなぁ」
担任が繰り返す。
「だめでしょうか」
「いや、そんなことはないよ。
だけど今まで全く決めなかったから、どうして急にと思ったんだ」
どうして、とそれを言葉にするならば、彼女とその弟の為なのだろうと思った。
ただ、あの二人が支えあって生きているのに、参加したいと願った結果なのだ。
でもそれを言うことはしない。
「いろいろ考えるように、なっただけです」
今まで、見ないふりをしてきたものをちゃんと見たいと思ったから。
担任はそうか、と頷いただけだった。
許されない感情ではないし、嫌いなものが邪魔してくる訳でもない。
昇降口で、見慣れた姿を見かけた。
声を掛ける。
すぐに振り向いた彼女は、前よりもきらきら輝いて見えた。
ずっと、一人で立っているような、そんな気がしていた。
そんな林葉が、誰かのために、と掲げた夢は、とてつもなく尊く思えた。
「今日は一緒に帰らないか」
そう言った海岬に、林葉は目を見開く。
でも、直ぐに目を細めて、こくりと縦に小さく振られる首。
「専門、どうだって?」
「反対はされたよ。でも、説得する余地はある。何とかしてみせるさ」
きっと海岬は何もできない、これは林葉の戦いだから。
「お前の作る菓子、好きだよ」
「ありがとう」
応援しているから、なんて言葉よりも、本心を伝えることが林葉の支えになると思った。
「だから、また作ってくれよ」
一人の幸せの為に頑張る彼女は、きっと他の人間も幸せにする。
それが分かっていたから、海岬は笑った。
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20140514