父の大好物は焼きそばです
父はよく姿を消した。
と、言っても家の中でのことである。靴も鞄もあるのに、
父だけがふっと消えたように家の中から姿を消すことがあるのだ。
それを俺は、よく母に聞いていた。おやじはどこへいったの? と。
「焼きそば焼いてみれば出てくるわよ」
母の言葉通り姉にせがんで焼きそばを焼いてもらえば、
天井がぽこん、と外れて屋根裏から父が這い出てきた。
何故焼きそばが、と首を傾げた父に私を欺くことは出来ないのよ、と母は笑った。
焼きそば、屋根裏、欺く
*
なんなんだそのチョイス
筋肉むきむきのキリンが追い掛けてくる悪夢で目が覚めた。思わず弟を呼びつける。
「なんて夢見せてんだ!」
「だってこれなら寝坊はなくなるだろう?」
やっぱり弟の気遣いの方向はすこし可笑しい。
筋肉、キリン、寝坊
*
危険回避
生徒会役員が罵詈雑言を乱発する様子を逆側の歩道から眺めている夢を見た。
「…で、今回のは何?」
「僕というか、あれは僕らの血に反応した何か、じゃあないのかな」
一応兄さんだってこの血が流れているのだし、と弟は珍しく眠そうな顔で言った。
まだ俺が高校生だった時の、とある予知夢の話。
役員、歩道、乱発する
*
それなら良いんですけど。
「お姉ちゃん様に恋人が出来た」
その宣言に俺も弟も目を丸くした。
姉の連れて来た高橋という彼はひどく美しい男で、どうやら弟の一つ下らしい。
見るからに虐められてそうな風貌で姉と付き合うのも罰ゲームだとか公開処刑の一環なのかと思った。
違うらしい。
高橋、処刑、お姉ちゃん
*
だから残念なんだよ
お父さん、と読んでいた記憶がない。
そうこぼしたら、私が親父って呼んでたからね、と姉が答えた。聞いていた父親がばっと顔を上げて、
「なんなら体験するか!?」
「はぁ?」
「長年分かり合えなかった父をお父さんと呼ぶ感動大作!
取り戻される家族の絆! 映画化間違いなしだ!」
家族の絆はちゃんとあると思うが、と無視をした。
体験、映画化、お父さん
ライトレ
20150603