むま先輩は姉と兄がとても好き



「先輩のお姉さんってどんな人なんですか?」
「オイお前、いくら先輩が優しいからってそうプライベートに突っ込むなよ」
「何言ってるんですか部長、私たち学生ですよ、学生なんてプライベートに踏み込んでなんぼですよ。
というかこれを逃したら先輩卒業しちゃうから困るんですよ、今までみたいに聞けなくなるから」
「お前の中でむま先輩って何なの、消費コンテンツなの」
「そうかもしれませんね?」
「そうだねえ、姉さんはすごい人でね、」
どうやら直前の俺たちのやりとりはまるっと無視されるらしい。
良いのだろうか、消費コンテンツ扱いで、
と思うものの先輩が良いならそれ以上俺に言うことは出来ない。
「結末から言えばすごいけれども普通の人なんだけれど…君はそれでは満足しないんだよね?」
「ええ、もちろん!」

この時はまさか、
五時間に渡る姉自慢(時々兄自慢)に付き合わされるなんて露ほども思わなかったのである。



結末、無視、お姉さん



*



後輩よ、妄想で食っていくのはやめなさい。



やっぱり先輩のお姉さんのことが気になる、
と騒ぐ眼鏡の後輩を諌めるのに毎日どうしてこんなに苦労しなければならないのか。
まるで底なし沼にでもハマったような騒ぎっぷりだ。
これがまだオタク業であるのならば頷くくらいに留めるが、対象は現実の人間である。
しかもアイドルでも何でもない、普通の…普通の? いやまぁ普通の人間である。
仮にも先輩のお姉さんを捕まえて普通じゃないなんて言うつもりはない。
普通じゃないとは思うが。これがきっと恋だとかそういう類のものでも、それなりに納得した気がする。
がんばれよ、と言ったと思う。
でもただ後輩は、
先輩のお姉さんという会ったこともない一応実在するらしい人間に執着しているだけなのだ。
その執着が逆に怖い。
「会いに行けば?」
「それはちょっと! 流石に! 先輩にご迷惑が」
その前に俺に迷惑をかけるのをやめてほしい。
「でもほらアレだぞ。むま先輩の様子を見るに、アレだ、お姉さんは…」
「なんです?」
「古の魔物とか、そういう類のものだ。触れたら呪われる系」
「何ですかそれ! 絶対会いたい!!」

ああ先輩、何で卒業なんかしちゃったんですか。



お姉さん、沼、古の



*



「兄さんは人気者だねえ」



体育祭のクラス対抗全員リレーで弟が思いっきり転んだ。
見事に顔面からスライディングするという、漫画のようなこけ方だった。
別にクラスメイトから責められたりはなかったらしいが
(どうにも弟のドジっ子体質は既に知れ渡っているらしい)、終わったあとに慰めていると、
弟のクラスの教育実習生がやってきた。彼もどうやら弟を慰めに来たらしい。

が、こちらの顔を見た瞬間おもいっきり顔を歪めて来て、
なんだったかと思えば学生時代、人を勝手にライバル視して来た奴だった。
「…オレもあの時は、子供だったよ」

弟を挟んで酒も入っていないのにラーメン屋でくだをまく、こいつから早々に逃げ出したかった。



ライバル、ラーメン屋、体育祭



*



君はつよいこ



高橋って演歌好きなんだってさーうっわ演歌とかねーわァカラオケ連れてったら
歌うんかないやまず一緒に行きたくねえし演歌とかマジねーわ。

敵意で満ちた言葉を聞きながら、僕は拳を握っていた。
別に高橋が何好きでも良いだろと、
弱虫な僕は美しくて何でも出来る同級生を庇うことが出来ないでいる。



演歌、高橋、敵意



*



完璧に最も近い姉



専門学校に行く、と言い出した姉を止めるのに弟を呼んだはずなのに、
気付いたら二人してどう資産を増やすかという話をしていた。
「待って、お金の話じゃなくてこれ以上姉さんを完璧に近付けたくない故の発言だったんだけど」
その言葉も最早聞いてもらえず、仕方なく壁についていた蜘蛛に話し掛けた。



専門学校、資産、蜘蛛



ライトレ
20150603