「もう嫌だ!こんな家、出てってやる!!」
今日も同じように、中藤家にはカラグの叫び声が響き渡った。
アメイズィング ディスガイス
「ありえない。まじで信じられない」
カラグは自室で六花に愚痴っていた。
内容はついさっきのこと。
もう少し詳しく言うと、意味のないお見合いの所為で、日曜日が潰れたこと。
「六花と買い物行くはずだったのにー…。
それに、何で見合いの相手が十三も上なのさ。
何考えてんだよ。
てか、どーせ断るんだから、さいっしょから受けなきゃ良いのに」
今回の相手―――二十七歳。
財力はもちろんのこと、家柄、ルックス、性格、全てにおいて中藤家を継ぐには不足。
一体、親は何を考えているのか。
「あーもー×××!!」
お嬢様には到底似合うとは思えない、汚い言葉を叫ぶ。
六花は苦笑してそれを見ていた。
「会うだけだって。家の体裁保つためでしょ」
「リターンズが嫌なんだよ…」
今回の相手は。実はもう三回目。
よくもまぁ、懲りずに来るものだ。
と、言い忘れていたが、カラグの外見は美人の部類に入る。
…黙っていれば、の話だが。
一度口を開けば敵う者など居ない。
巧みな言葉遣いで相手を攻め、再起不能にすることすら可能だ。
それほどの毒舌の持ち主である。
公の場ではセーブするとしても、今回の見合い相手の精神面が、ものすごく心配である。
「あ、そうそう。来週からはそういうことなくなるよ」
六花が思い出したように言う。
「…?何で?」
カラグは首を傾げた。
「だって、来週から一般の学校へ行くんだもん」
「…は?」
ちなみに、今は六花と共に、王族や貴族の通う学校へ行っている。
「一般のって…平民の、ってこと?」
「あれ、聞いてない?」
六花はそう言うと、話し出した。
どうやら、中藤家には代々妙なしきたりがあって、
その中の一つが十三歳から十九歳まで平民として生きる、というものらしい。
その間は平民になりきらねばならず、バレたら転校して一から遣り直し、など、
実は厳しいルールがあったりなかったり。
「…なんだそれ。初めて聞いたぞ」
「で、アパート借りて平民になりきるんだって。
あと、私の他に同居人は二人。
一人は護衛で、もう一人は家事担当」
「…まじ?」
「大まじ」
アパート。平民。同居。
カラグの頭の中を、単語が駆けめぐる。…ってことは。
「この家から出ていける!?」
「念願叶ったねーオメデトウ」
パチパチ…という、六花のやる気のない拍手。
「平民になりきるっていう大きな課題もあるけど…出来る?」
「大丈夫、大丈夫。
あの平民オタクのアイツのおかげで、必要な知識は持ってるはずだよ。多分問題ない」
カラグは笑う。
平民のふりなんて愉快じゃないの。
仮面くらい、いくらでも被ってやるよ。
20110906