「センパイいいいい」
もう!と頬を膨らます勢いで屋上の給水塔の上、顔を出したのは一人の少年だった。
柚木雲雀(ゆずきひばり)。
その名前を、
六匠統(りくしょうはじめ)は彼の家族以外では誰よりも知っていると自負している。
「探したんですから!」
中学生男子にしては高い方であろうその声も、
とても良く似合うと思うのは別段身内びいきではない。
きれいなアルトだ、とハジメはいつも思う。
この声を聞くのが好きだ、とも。
「ヒバリ、お疲れ様」
こんなところまで、と言いながらハジメは読んでいた本を閉じる。
「センパイ、もう勝手にどっか行かないでくださいよ。
探せって言われるの僕なんですよー?」
しゃがんで覗き込むと、ヒバリは分かりやすくふくれっ面をしてみせた。
それもまた様になるのだから、童顔イケメンというのは罪深い。
ふむ、とハジメは一人頷く。
ちょっとセンパイ、話聞いてます?
と更に膨らむ頬はリスなどを通り越してハリセンボンみたいだ。
実物を見たことはないが。
「もう、勝手にどっか行かずにちゃんと授業受けてくださいね!」
上目遣いは意図的だろうか、それとも天然なのだろうか。
恐らく後者だ。
もう一つ頷いてから、ハジメはにっと笑う。
「行くかもしれないな」
「えっ」
「で、もっ」
手を差し伸べれば分かってない顔で取られるので、そのまま引き上げてやる。
同じ高さに立ったヒバリをぎゅっと抱き締める。
「いつだってヒバリが見つけてくれるでしょう?」
次もよろしくね、と耳元で囁やけば、面白いように真っ赤になるのだから、やめられないのだ。





20140110
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