まだ先のはなし 何かもっと他に言うことがあるだろうと言われればきっとその通りだったし、今まさにそれを言われたところだった。しかも発案者で既に人間という殻を脱ぎ捨てたその人に。人ではないが。それを言うならきっと自分もまた人ではないのだろうが、今はどうでもいい話にしか思えなかった。 「えっと、ドクター。一応聞きますが正気ですか?」 『君はそれを私に聞いてしまうのか。他でもない私に』 「だって一応ドクターだって元は人間………人間ですよね? 実は違ったとか、そういうのないですよね? 僕大丈夫ですか?」 『君は大丈夫だし私は元は人間だ。心配しなくて良い』 「ああよかった…」 『で、君、子供が欲しいと思わないか』 「待ってその話題戻るんです!?」 例えばそこに恋愛だとか、まあ百歩譲って恋愛でなくとも子供が欲しいとか、つまるところ情緒のない言葉で言ってしまえば需要、があるのならば青臭い言葉など吐かなくてもよかったのだろう。しかしながら現実は何もなく一飛びに子供の話を出されているのであって、結局のところ高校に至るまでにまったくと言っていいほど色恋沙汰その他に恵まれなかった身としては泡を吹くしか出来ないのである。童貞と罵るなかれ。 『えー。良いじゃないか、子供』 「…子持ちの言葉は重いんでやめてもらえますか」 『君は十七なんだろう? 問題ないと思うが』 「何が? いや待ってくださいやっぱ聞きたくない」 『性知識とか、あとはまあ親となる最低限年齢はクリアしてるかな…と。君はどうせ気にする質だろう?』 「あれっ思ったより普通のこと言われた…?」 『だって幽霊は射精しないからね』 「掃除機じみたものからそんな言葉聞きたくなかった!!」 あとしないんですね!? と新たに知った事実に喚けば、そりゃあ緩衝材の世界に人口を増やすわけにはいかないだろう、と全うなことを言われる。 『で、だ。君には墓というものがあるのだし、別に無茶なことを言ってる訳でもないと思うんだが。私にしてみれば研究前に本人の使用許可を得るだけ真面な対応をしていると思うんだが?』 「待ってください、って待ってって僕言い過ぎですね!? なんで許可取らないのが普通みたいなこと言ってるんです!?」 『普通だから…』 「一応、聞きますけど、」 『許可はとったようなとってないようなって感じの大昔にとった気がする』 「先手打たないでください! あと許可取り直してきた方がよくないですかそれ」 最早こうして会話出来ていることが奇跡なのだから細かいことは気にしたら負けな気もするが、既に死んでいるとは言え人間としてのあれやこれやを捨てたつもりもない。 『そんなに嫌がることかなあ。あの子のこと、嫌い?』 「そういうわけじゃあ、」 『じゃあ好き?』 「両極端!!」 思わず顔を覆う。 「というかですね、確かに好きか嫌いかで聞かれたら好きですけど、それが恋愛なのか友情なのか分からないんですよ。そもそも僕がそういうの抱いて良いモンなんですか」 『基本的に感情は自由だと思うよ。君の情緒面が幼いというだけの話だろう』 「幼いとか言わないでくれます!?」 仕方ないなぁ、と掃除機じみたものは恐らく彼女が人間だったならため息を吐いたところだったのだろう。 『この話はもう少し先延ばしにするよ』 それにホッとしたのも束の間。 『君が覚悟を決めるまでの間、私は材料収集に専念しよう』 「決定事項みたいに言わないでもらえます!?」 * 少年の「恋愛なのか友情なのかわからない」 * https://shindanmaker.com/524501 *** |