一生貴方だけ特別に 

 むにゃ、という声に振り返る。
 だらしのない顔をした上司がそこでは眠っているはずだった。はずだった、というのは別にそれが過去のことで失われている訳ではなく、ただ単に俺の目が機能していないが故の推測だった。
「私の王国ではね、私はお姫様なんだ。それでね、隣の国に王子様を探しに行くんだよ」
唐突に喋り出したそれを訝しむも、それの呼吸が寝ている時のそれであることをもう一度確認して唇を開いた。
「それは俺のことか?」
 ただの戯れだった。
 寝言と会話するな―――そんなのは人間の言うことであって。上司がどんな寝言を返そうとそこに危険はないし、何が壊れる訳でもなかった。けれど。
「ううん、レディちゃんは馬だよ」
「え、」
「私の王国ではみんな馬なんだ。レディちゃんは白くて特別な馬なんだよ。乗ってあげるから喜んでね」
「あ、ああ…」
そのままむにゃ、とまた深く眠りに落ちていった上司に、なんだかとてつもなく敗けた気分になったのはまた別の話なのだ。



嫁さんの寝言ベスト1は、つきあいだしたころの寝会話。嫁「私の王国では私はお姫様で、隣の国に王子様を探しに行くの」私「それは、オレのことかい」嫁「いえ、あなたは馬」私「お、おぅ…」嫁「私の王国ではみんな馬。あなたは白くて特別な馬よ。乗ってあげるから。喜びなさい」私「は、はい」です。
https://twitter.com/martianb/status/412029851390849024

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20170113