夏のある日、腹が立つ程空は晴れていたと思う。その日のことはあまり良く覚えていない。だけど、途方に暮れる私を拾ってくれたのは紛れもなく彼なのだということは、覚えている。 日常 「いずみー、お客さんだよー」 大きな和風のお屋敷の庭の大きな樹の下から涼水は声をあげる。生い茂る葉の中で微かに動く銀色を見つけた。 「涼水?」 ひょこりと顔を出した子供はいつも通りのんびりとこちらを向く。腰に手をあてまだ寝呆けているらしい彼に叫ぶ。 「仕事ー!」 「エー…お昼寝してたノニ…」 少しだけ顔を歪めてから、音もせず涼水の前に降り立った。身軽にも程がある。 「接客ありがト」 「どうも。早く行ってあげて」 「はーイ」 小さな店主を急き立て屋敷へ向かう。 此処へ来て二年、雑用を手伝うことにも慣れた。記憶を失くして何処へ行くことも出来なかった涼水に、居場所を与えてくれた小さな子供。 「ようこソ、白狐の黎明堂ヘ。僕は筑紫いずみ。子守から暗殺、雑用から誘拐マデ対価さえ払って頂けれバ何でもお引き受けしマス」 白狐の黎明堂、所謂何でも屋。これは其処の従業員、皇涼水の一つの日常のお話。 * 皇涼水(すめらぎすずみ) 筑紫いずみ(つくしいずみ) |