あおいレイトショー 「だって私、妹だもの」 そう言った瞬間彼は信じられないものを見るような目で私を見てきた。嘘だった。私は妹なんかではなく、正真正銘まさしく彼が先程まで熱烈に口説いていた姉の方であったのだが、彼はどうやら私たちの区別がまったくついていなかったらしい。そりゃあ確かに似ているし、彼は私の顔を覚えるほど私に会っていないのだし、私の方が才能がある―――そんな噂だけで私を求めたような馬鹿な男、ではあったけれども。 それでも少し可哀想だな、と思う。延々こき下ろしていた人間が目の前にいましたと嘘であろうとも言われてしまえば動揺して、ああ本当に可哀想なほど動揺して、彼とさっきから視線が一度も絡まない。穴があくかと思うほどに見つめられていたのに、嘘の効果とは絶大だ。 「だから、」 今度は私の番だった。つまらないおしゃべりを延々と聞かされていた分は払ってもらおう。 「今度は妹の私を口説いてね?」 そうして立ち上がる。 妹のちっぽけな自尊心を満たしてやるために、そして少しの嫌がらせのために、愛想を振りまく私は一体どれほど妹思いなのだろう。 * 書き出しme *** 20170423 |