死して貴方の隣にいましょう 

 割り振られた仕事通りに魂を回収に行けば、ここ最近やたらと出会う人間の気配にため息を吐いた。別にそれがいたからと言って何が変わる訳でもないが、こちらが見える上にやたらと話しかけて来るので少々疲れるのだ。女に睦言を紡ぐのは得意だったけれども、お子様の相手は苦手だ。
「あら、また会ったわね、死神さん」
しかも死神の存在を知っているのだから、余計にやりにくい。
 死神の存在を知っている人間というのは確かに珍しいがいない訳でもない。昔から視る力のない人間でも何かを通せば視えるとか、そういう話は山盛りあったのだ。ただ最近ではそういった不思議な話は人間の間ではオカルトと、古い話だとされているようだったが。今も昔も変わらず人間以外のものはいるのだが、まあ気にしていないのならばそれで良いのだろう。
「でも今日はちょっと汚れちゃってて」
「見えねーよ」
血の匂いがひどいが、この人間のものではないのだろう。ひどい殺し方をしてしまった、そんなところか。ちょっと待ってね、という人間を待つ意味なんて本当はないのだが、暇潰しに待つことにした。もう魂は回収してある。あとは帰るだけなのだ。
 土を掘る音。何をしようと言うのだろう。
「…何してんだよ?」
「服を探してるの」
服? と首を傾げる。此処には、死体の山しかないはずだったが。
「あった。これで良いわ」
土を掘る音が止んで、ずりずり、何かを引きずりだす音。よいしょ、と何かを剥ぎ取る音。ぱんぱん、何かを払う音。流石に見えなくても今死体から追い剥ぎしたな、というのは分かる。
「ねえ、似合う?」
「………だから見えねーよ」
くるり、と回ってみせたらしい人間がどんな服を着ていたのか分からないが、まだ死期でもないのに死臭が凄まじかった。
 きゃらきゃらと耳障りな笑い声がしていた。

***

君の所為なんだから 

 死神も飲食をするんでしょう、と誘ってみれば興味を示したのか彼は大人しくついてきた。死神も結構暇なのかもしれない。というか彼だって仕事に来たとかその帰りとかだろうに、私に着いて来て良いのだろうか。気にはなったが帰られても嫌なので口にしなかった。
 酒には強い自信があった。だから、もし死神が酔う生き物だったら良いのに、と思っていたのは事実だ。だけれども。
「…貴方、酔わないの」
「酔わねえーよ」
まるで水を飲むような調子の彼に聞くと、知らなかったのか、と返された。
「基本死神はざるだ」
「………なあんだ、つまらないの」
死神についてはその仕事についての文献ばかりで、彼らがどういった生き物なのかという記述は少ないのだ。だからざるなんて情報、知らなかった。
「死神も普通に酔うんだと思ってたわ」
「酔わせて殺しでもするつもりだったか?」
「死神って死ぬの?」
「死ぬに決まってんだろ」
「あら、そうなの…」
変な話だ、と私は多分笑えていたと思う。彼にはそんなもの見えないから、関係ない気もしたが。
「死神にも死はあるがな、人間如きに殺されたりなんかしねえよ」
「そうなの」
「なんだ、残念だったか?」
誂うような口調。私がどんなことを思っているのかすら、知らないくせに。
「そうね、貴方が死ぬのなら、それは私の所為であってほしかった、かしら」
 本当の意味は、知らせないまま。



image song「even if」平井堅

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20180202