貴方達の言葉が私に限界を越えさせる 嘘なんて何度も何度もそれこそ何度も忘れるくらいに吐いてきた。覚えていないのも、覚えることすら出来ないのも、選択出来なかったことも、何もかも、全部。なのにどうして今、最上歪ともあろうものが! 水宮かがみを、天草涸月を、かわいそうだなんて思うのだろう! 可愛くてたまらないなんて思うのだろう! この身すべてを費やしてもすてきな結末を呼び込みたいなんて、そんなの。 なんて、ね。 「現じゃあないんだから」 そんなことは言えないよ。 * 空耳 @sora_odai_bot *** 波が帰っていくとき、キミも一緒に消えてしまうんじゃないかって思ったんだ ざざん、ざざん、海というのは音がするものだと言われたような気がする。教えてもらったような気がする。貝の中に反響する自分の音は海の音が残っているのだと、そんなことを。 誰だったっけ。 そんなことも思い出せないのに。 「愛していますよ、来々」 「俺もだよ」 嘘吐き。 * キミが映る水溜まり @kimiutu_bot *** 獣性 嬲れ、嬲れ、嬲れ。それが強者に許された特権だった。少なくとも用賀骸には許されないものだった。それを悲しいと思ったことはない、そういうものだから。諦観よりもずっと確かな存在意義。父親と呼ぶのか母親と呼ぶのかも分からないその肉塊たちが自分たちを愛している、愛おしいと言っているのが可笑しくて堪らない。 鏡越しに同じ顔を見たような気がした。彼女はもう此処にいないのに。確かめる勇気もなかった。鏡に映った貴方はどんな表情(かお)をしていたのだろう。獣のようなその瞳の奥で本当は何を見ていた? 答えは闇の中。他ならぬ骸が殺したのだから。 *** 鎖 「みんなみんな幸せにって、そう思うのは俺が偽善者だからかな?」 「そう思って育ってきたの」 「分かんないや。でも、現はきっとそうだった」 「冷たい場所で?」 「冷たさもない場所で」 「愛の感じられない場所で」 「それでも優しくなれるように」 「最低ね」 「最低だよ」 *** だっておんなじだから 「生命って難しいな」 「ひとつなのにね」 「一言で言い表せない」 「いいあらわそうとすることがごうまんなのよ」 「でも物書きってそういうものだろ」 「あら、歪。現みたいなこと言うのね」 *** ざまみろ神様 「こんなアタシでも愛することくらい出来るんだっつうの、バーカ」 * @s_k_netatyou *** 雨に濡れて張り付いたスカート くさいな、と思った。これは他人が分かるようなものではないとセンセイたちは、大人たちは言っていたけれども本当だろうか、と思う。だってそんなの誰にも分からないのに、分からないのに、分からないのに。分からないと嘘を言うかもしれない、分かると嘘を言うかもしれない。 誰もそれが嘘か嘘じゃないか、見抜く術を持たないのに。 「ほーら、馬鹿なんだよ」 笑ったら傘が落ちた。 * (おんなのしょうめい) * azato @azato10 *** まもるひと ずるいのね、と子供の顔で、本来の子供の顔で子羊は言った。そんなうらわざがあったなんて! そう手を叩く子供は本当に嬉しそうだ。 「どうぞくけんおなんてことば、つかうのももったいないくらいよね」 子羊は笑う。すべて知っているような顔で笑う。 「でもみとめたくないんでしょう」 暴力で、どうにか出来ると思っていた。けれどもそれは間違いだった。どうにか出来ることと出来ないことがある。この子供は浅ましくもそれを示す。 「ゆがみはわかっているのに、ゆがみとうつつはおんなじなのに、ゆがみはじぶんはあんなにこどもっぽくないんだっておもっていたいのよ」 その日、歪の手のひらは誰も叩(はた)かなかった。 歪は子羊に暴力を振るうことをよしとしなかった。 *** それは既に退路がないと知っているからです どうしようか、と問われたのが夢であると誰が証明できよう。ただひたすらに真っ直ぐな彼は何処も見ていなくて、それでも誰かを求めていて。ロマンチックですね、と一生懸命に絞り出した言葉でもっても何も飾り立てられることはない。 「夢見る少女でいたい訳じゃないよ」 静かに来々は言う。 「…来々は、男でしょう」 「そうかもしれないね」 優しい声で来々は言う。それが、英にはひどく冷たく聞こえる。 「現実なんてもう、とっくに見えているはずなのにな」 どうして前に進めないんだろうな、と来々は言った。 英はただ、聞こえていないふりをした。 *** 擦り切れた愛などもう要らない 思わないことがなかった訳ではない。物語の主人公のように、彼女に激情をぶつけるように何もかも。出来ることは何でもして、キスをして抱き締めて犯して首を絞めて締めさせてそして、叶わないというのなら、この手で。 「………かがみくん?」 伸ばした手を止めたままのかがみに涸月は首を傾げる。首にすら触れていない。 「やらないの?」 細い首。すぐに折れてしまいそうだ。大人というのはもっと頑丈なのだと思っていた。なあんだ、と涸月は呟く。かがみにはもう夢想する力もない。 「かがみくんにならころされても、よかったのにな」 笑う涸月に、お前は誰にでもそう言うのだろう、とは言えなかった。 |