運命とは世界の流れ。
気まぐれに揺蕩う残酷なその流れは、どんな者の手にも余る。
光も闇も交差する世界で、目覚めた者は何を思う。
「運命に逆らう者たちよ。この世界を、どうか」
声にならない祈りがこのまま、消えてしまわぬように。



序章
「とうとうこの時が来たか」 某年某月某日某所―――。 魔法使い界と呼ばれる知る人ぞ知る世界の一角で、第十五代目女王は一人、呟いた。 「何事も起こらなければ良いのだが」 左手に出現させた杖を振るうと、彼女の目の前にあった三つの箱が空中に飲まれていく。 魔法の名残がきらきらと散って、その向こうから小さな影が現れた。 「女王さま」 「マイ」 人間よりも小さなその影は、大きさで言えば三十センチメートル程だろうか。 背中の薄い翼を羽ばたかせて寄ってきた彼女は妖精だ。 魔法協定に基づきパートナーとして組んでいる二人の関係は、 女王がまだ見習い魔法使いだった頃からのものだ。 「ご心配ですか?」 ふっと笑って女王はマイを抱き寄せる。 「…いや、心配しても何にもならないよ。 私はただ…運命の動く様を見ていることしか出来ない。 手を下すことは、赦されないんだ」 この時から既に歯車は回り始めていた。 否、もっと前から。 くるりくるりと止まらない運命の渦の中で、 後に語り継がれるようになる第十六代目女王選抜戦は幕を開けたのだった。 ←  
20140602
20150107 改訂