さよなら、僕を騙した最悪の世界。
もう死ぬのかもしれない。 不穏な考えが頭を過ぎっていった。 血はどんどん失われて、指先から冷えていくのが分かる。 頭上でざっと音がした。 ひとのあしおと。 「生きてるか?」 おんなのひとのこえ。 「…いき、てる…よ…」 掠れて何を言ってるのかも分からない声で暁は答える。 ああ、これ助からない。 笑いが漏れそうだった。 死んでしまう。 たった一人の妹すら救えないで。 こんな冷たい世界で、死んでしまう。 「生きたいか?」 変なことを聞く、と暁は思った。 そんなの、考えるまでもない。 答えなんて一つしかない。 「…いき、たい。いきて、ふくしゅ、う、したい」 うばわれたえがお。 「あいつを、ころさ、なきゃ…」 なくしたもの。 「まも…れな、かった…ぼく、やくそく…した、のに…ッ」 もう、もどらないから。 「…分かった」 細い腕に抱き上げられる。 顔は、見えなかった。 もう視界は半分以上真っ暗で、なんとなく光が分かるくらいだった。 「最善を尽くそう」 こくり、と頷くと同時に、人肌の暖かさに意識が遠のいていくのを感じた。
20141121