嗚呼愛しの俺の女神! 吸血鬼ににんにくが効くなんていうのを最初に言ったやつをぶちのめしたい。十字架も然りだ。 「どっちもきかないじゃねーか!」 寧ろ先輩がそれ信じてたことに驚きです〜と俺の女神がやってくるまであと五分。 * 十字架、にんにく、吸血鬼 *** お土産のわかめ その海岸はその地元では有名な場所らしい。呪われし場所、ということで。小学生が幾人も消えているようだ。そういう場所に仕事だからと連れ出されて、ぽかんと海を見ている。ターゲットになるのは小学生のはずで、こんな成人男性はお呼びでないとは思うが。 「あーこれ、青葉さんに来てもらうこともなかったですね」 この言い草である。 囮になってください、と謝礼を渡されてしまえば協力しないなんて選択肢はないので来たが。 「…何、解決しそう?」 「はい。っていうかこれ、普通にただの事故です。なんで分からなかったんでしょうね」 この下に洞窟あるんですよ、といつまでも子供のような顔をした少女は笑った。 「私の仕事じゃないので、然るべき場所に連絡して、あとは遊んで帰りましょ」 「遊ぶって、何処で」 「海?」 「足引っ張られないなら」 立ち上がる。 何事もないというなら、その方が良いのだ。 * 小学生、海岸、呪われし *** 風の強い日にも注意 台風のニュースが流れるとわくわくしたものだ。休校にならないかな、なんてそんなふうに。けれどもそれのわくわくはいつしか消えていった。何故なら。 携帯を取り出す。 「あ、成。なんかベランダに河童飛んできてるんだけど」 『ええ〜…水掛けて追い返せば良いじゃないですか』 最近、可愛い後輩が冷たいので先輩は悲しい。 * 台風、ニュース、休校 *** 最強少女(スーパーガール) 呪文、なんてよく言ったものだ。呪いの文、それはある意味正しいものなのだろう。言葉には意味がある、故にそれを並べて文を作れば、力の流れを作れる。そうして古来から人は、言葉の通気性を使ってその力を通してきた。けれども。 「私には関係のない話なんですよねえ」 どこかの漫画で見たポーズを取る。言葉など使わなくても、力の使い方さえわかっていれば、媒体など必要がないのだ。 * 呪文、意味、言葉 *** 占いなんて信じるもんじゃない よく行くゲーセンの端っこの方には占い師がいる。あるとき手を掴まれて黒の相が出ている、と言われた。何だそれ、と思っていたら後ろからやって来たのは最強の後輩の寡黙な幼馴染で、 「………黒はお前だろう」 その一言で、次の瞬間には占い師は消えていた。あれは、何だったんだろう。 今でも彼はその正体を教えてくれない。 * 占い師、ゲーセン、黒の *** この分じゃあ夜にはどうなっていることか 図書館の中でカウボーイになってはいけません。 復習するために陣取った隅の机で俺はそんなことを思った。数式を映す視界の端には、本の中から出てきたのだろうカウボーイがうきうきと走り回っていた。 * カウボーイ、復習、図書館 *** 低音だけど勘弁な 中古のベースを抱えてスタジオに入る。 人の肩で鳥はあいも変わらず喧しく鳴いていたが、 「一曲弾いてあげれば成仏しますよ」 自力でお願いします、と半ば投げやりな声で言われてしまえば自分でどうにかするしかない。いつまでもあの人のいい後輩に甘えている訳にはいかないのだ。 * 中古、ベース、スタジオ *** いいから肉を寄越せ コンビニのバックヤードでは毎日薄暗い取引がなされている。 「ハンバーグを俺に譲れ」 「先輩はもう年なんだからここは育ち盛りの俺に」 「明日のデザート譲ってやっから」 「先輩それ守ったことないじゃないですか」 * ハンバーグ、取引、コンビニ *** 尻尾は二本ありますが。 春休みになって骨董屋に足を踏み入れたからって主人公になれる訳じゃない。そもそも主人公になりたかった訳ではないけれど。それなのに足を踏み入れたのは可愛らしい猫が居たからで。 「可愛らしい?」 友人は首を傾げていたけれど、どうみたって可愛い猫だろう? * 主人公、骨董屋、春休み *** いつものお返し 落ち武者の霊が出るんですってよ、とその噂を断ち切れと言われたらしく、妙にやる気のない彼女に連れられた廃寺で、思わずうずくまった。 「どうしたんです、青葉さん」 瞼の裏で再生される映像は。 「…屍」 「しかばね」 「転がってる…多分、そこ、曲がったところ」 指さした方にてくてく歩いている彼女を見て、これはさっさと片付けるために利用されたなあ、と最初から分かっていたことを再度思ったのだった。 * 落ち武者、屍、再生 *** |