反比例 

 テレビは私達を愚かにしうるでしょうか? その問いに風は困ったように息を吐いた。
「君は答えの要らない質問をする時、どうしてそう、僕のものまねをするんだろう」
「その方がわざとらしいからじゃない?」
「わざとらしいって」
君には使ったことないはずなのになあ、と言う風に、音音は笑って見せる。
「でも、わざとらしい風も好き」
「はいはい」
「あと、別に答えが要らない訳じゃない」
「じゃあ重要性が低い?」
「そうとも言うかな」
 伸ばされた手が触れる、まるで日常のように、そこから融け合いそうな温度。音音の指がどういうものなのか、きっと風はもう知らないだろう。知っていることが前提であるのだから、そもそも知る≠ネんていう感覚はとうに過ぎている。
「テレビは私たちを愚かにするかな?」
「一緒に見ている時にそれを言う?」
「私たちは愚かかな?」
「こんなに密着していてそれを言う?」
風、と諌めるような声は出ない。
「すきだよ」
「うん」
「あいしてる」
「うん」
「風は」
「僕も音音、君が好きだよ。愛している」
そう、と呟いた。そうだよ、と返された。
 テレビはまだついていた。内容は頭に入ってこなかった。それが愚かということなら、それが幸せなのだろうと思った。

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