雨の中を、少女は走っていました。
「待って」
その叫び声は、彼には届きません。
「待ってよ!!」
それでも少女は走り続けました。
前を走る彼―――愛しい少年に届くように、か細い声を張り上げて。

雨の日。

視界はこの上なく、悪かったのです。



「何ででしょうね」
少女は白い石の前で、一人呟きました。
雨の日です。
雨は容赦なく、少女の身体を打ってゆきます。
「何で、何も、憶えてないはずなのに」
遠くを見つめて、少女は言葉を発します。

「雨は嫌な感じがするのかしら」



全てを捧げる人は、何故、幸せになれないのでしょうか。



いつかの雨の日の少女が叫びました。

でもそれは、今降っている雨の少女には、届きませんでした。





20101110