少女はそこに立っていた。
白い石を挟んで、少年が座っている。
少年は、泣いていた。
「泣かないで」
少女が何度そう言っても、少年は涙を流し続ける。
「泣かないでよ」
ボロボロを涙を流したまま、少年は顔を上げた。
「泣くくらい良いだろう?君は僕を置いていったのだから」
「そうだけど」
「だからもうちょっと、ここで泣かせろよ」
少年は虚ろにそれだけ言うと、また俯いて涙を流した。
「馬鹿じゃないの」
少女は呆れたようにそう吐き出すと、白い石を越えて、少年の前に座った。
少年は前を見つめている。
少女は一度唇を舐めると、少年の頬に舌を這わせた。
少年の涙が、少女の口内へと入っていく。
「しょっぱいわ」
少女は少年から離れて呟いた。
「どうして哀しみは、しょっぱいのかしら」
少女の問いに、少年は答えない。
「また明日も会いに来るよ」
少年は立ち上がって、
「レイ」
愛おしそうに名前を呼んだ。

少女は少年の後ろ姿を見送ると、
「レイって言うの、私は」
ちらりと後ろを、自分の名前の刻まれている白い石を、振り返った。





20070928